ハンドルネーム、リリーの話(7)殺人事件

 

 リリーのブログが放置状態になって、しらばらくして・・・・。

 

 2006年の秋口のことです。

 

 彼女から届いた一通のメールというのが、大崎氏を恐怖のどん底に陥れたわけでして、概略、次のようなものだったそうです。

 

 「大崎先生、先週の土曜日、雨の晩なのですが、私は彼をひと思いに刺し殺してしまいました・・・・。

 

 これは仕方のないことだったのです。どうしてもやらねばならないこと・・・・。

 

 しかし、とても反省していますし、もちろん自首するつもりです。

 

 ここで、先生にお願いがあります。刑務所に入るまでに、一度お会いできないでしょうか。

 

 一人の人命を奪ってしまったわけなのですから、長い服役になることと思います。それは覚悟していることです。

 

 しかし、最後に先生にお会いして、ここに至るまでの私の屈折した動機を思い切りすべてを話しきって、完全燃焼したいと思うのです。誰も理解できないことだからこそ・・・・。」

 

 そこまで読み進み、大崎氏の両脇からは冷たい汗が浮かび上がってきたものです。

 

 犯罪被害者支援団体のリーダーを殺害・・・・!

 

 これはマスコミにとって格好の餌であることは間違いないし、場合によっては自分にまで鷹の目先が向けられる可能性もある・・・・。

 

 しかしです、彼が心底から慄然としたのは次のような文章からでした。

 

 「今まで先生を始め、多くのブログ読者たちに黙っていたというか隠していたことがあるのです・・・・。

 

 もちろん、記事内容に嘘はいっさいありませんでしたが、一つだけ、平凡なOL日記の中に、信じられないような隠し事があったのです。それは、つまり、私は普通の女、いや人間ではなかったのです。

 

 多くの方が私の容貌を目の当たりにしたら驚愕することと思います・・・。

 

 私は絶対に彼に会ってはならない人間だったのです。

 

 幼い頃から、どれだけそのことで悩みもがいたことか・・・・。

 

 とりわけ、男性の視線には死にたくなるような屈辱を抱いて少女時代を過ごしてきたのです。

 

 しかしですね、彼は本当に優しかった。たぐいまれなる人間的魅力に溢れる男性でした。

 

 その後も、恋人同士ではないものの、何度かデートをしてくれたわけです。しかし、永遠に一緒になることはできない・・・・。

 

 彼の態度から、それはわかるのです。

 

 彼の魂を永遠に私の心中に独占したかったのです。

 

 あとは刑務所に行くだけです。だから、もう怖いものはありません。

 

 先生に最後に一度お会いして、自分の全てをさらけ出したいと思うのです。

 

 再来週の日曜日、先生は神奈川県の○○市で講演をなさるそうですね。市役所の偉い方とは大学時代のご友人だということで、その関係で今回の講演会が成立したことまで調べさせてもらいました。

 

 その講演会には私も参加させてもらいます。そして、その帰り道、ぶしつけながら、ご挨拶をさせていただきます。そして、その晩、その足で私は警察署に赴くことにしたいと思うのです。

 

 しかし、先生に関しては、絶対に私を見ても、彼のような恐怖に引きつった表情を一瞬たりとも示さないことを信じております。

 

 それでは当日を短かった人生最後の楽しみというか、最後の晩餐とさせていただきたく存じます。

     

                     敬  具」